《概 要》
嘉例川火山灰層は、約175万年前の新生代第四紀更新世に堆積した広域火山灰層である。本火山灰層に対比可能な火山灰層は、
大阪層群では福田火山灰層、古琵琶湖層群では五軒茶屋火山灰層、魚沼層群では辻又川火山灰層、上総層群ではKd38火山灰層など、
近畿・東海から関東・甲信越におよぶ広い範囲に分布する火山灰層として有名である。
嘉例川火山灰層の層厚は約10mにも達し、その大部分は水流によって運搬された砂混じりのガラス質火山灰層であるが、
最下部には20〜50cmの降下テフラが認められる。火山灰層は灰白色ないし白色、最下部の降下テフラ部分では橙灰色ないし桃白色である。
嘉例川火山灰層の給源火山については、岐阜県高山市の恵比寿峠カルデラが比定されている。
嘉例川火山灰層は、これより下位に分布する坂東1・2火山灰層や南谷火山灰層などとともに、昭和の中ごろまで精米用や各種の汚れ落とし、
サビとりなどのための「磨き砂」として盛んに採掘されていた。
嘉例川火山灰層の直上には、暗褐色の泥炭質シルト層(亜炭)が堆積しており、この中から冷温帯以北に分布するミツガシワや、
冷温帯上部に北限をもつミツバウツギとコブシ−シデコブシなどの種子化石を産出し、花粉化石ではカラマツ属やブナ属・ミツガシワ属など
亜寒帯ないし冷温帯性花粉化石を多産する。昆虫化石では、北海道の道東部やサハリン・中国東北部に生息するクロヒメゲンゴロウや
ヒラシマミズクサハムシ、東北地方北部・北海道などに分布するエゾオオミズクサハムシなどを産出する。こうした各種古生物の出現結果から、
嘉例川火山灰層が堆積した約175万年前の気候はきわめて寒冷であり、この時期地球規模の氷期が存在したことが明らかになっている。
なお、嘉例川火山灰層が分布する多度町力尾周辺は、多度−嘉例川褶曲帯とされる変動地形を生じており、火山灰層や泥炭質シルト層などは直立し、
東方に向かうにつれて緩傾斜となる傾斜褶曲が観察されるなど、きわめて特異な堆積構造が発達する場所としても知られる。
《 評 価 》
嘉例川火山灰層が観察できる場所は、本地域といなべ市北勢町の計2カ所だけとなっている。本火山灰層は広域火山層として価値が高いだけでなく、
175万年前の気候や堆積環境を復元したり、この時期のころより活発化する養老−伊勢湾断層帯をはじめとした広域応力場を考察するうえでも、
きわめて重要な露頭として注目されており、桑名市の天然記念物に指定すべき貴重な地質資産といえる。
参考資料:多度力尾地区東海層群学術調査団(2013)「桑名市多度力尾土地区画整理事業地内 三重県嘉例川火山灰層発掘調査報告書」.
※ただし現在は、見学していただくことができません。
|