この句は、松尾芭蕉(1644-1694)が桑名に滞在した時浜の地蔵で詠まれたもので、『野ざらし紀行』に収められている。 『野ざらし紀行』は、貞享元年(1684)八月から翌年四月まで約九ヶ月に及ぶ紀行文で、この句の前に「草の枕に寝飽きて、まだほの暗きうちに浜のかたに出でて」と詞書がある。 一寸の白魚は幼魚の意で、春の季語「白魚」に対し冬の季語に使われている。 句意は「朝早くあたりはまだ薄明りであるが、白魚は白く鮮やかで、一寸の長さに輝いて
いる」。 箱書には「山田彦左衛門旧蔵」とある。 山田彦左衛門は桑名藩御用達商人で、分限者として知られており、芭蕉が逗留の礼として贈ったと推定されている。 芭蕉桃青 明本乃やしら魚白き事 一寸
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